出張公演のご案内
THEこども寄席には数多くご出演いただいている鏡味味千代さん。今、3歳になるお子さんを保育園に預けながら数多くのステージをこなされています。働く母として、一人の太神楽師として、どんな思いで取り組んでいらっしゃるのか伺いました。
-そもそも、太神楽師になろうと思ったきっかけは何だったんですか?
「普段から父が末廣亭によく行ってたんです。でも自分は寄席を全く知らなかったし興味もなかった。そんなとき、社会人になって2,3年目だったかな、父の誘いで初めて一緒について行ったんです、しぶしぶ(笑)。でもその時に聞いた落語が私にとって本当に強烈でした。(その落語は)すっごく想像が出来るんですよ、頭の中で。しかも、見終わったあとに自分が想像したものをリアルに再現できたことにまた感動してしまって。大人になってもそんな想像力を与えてくださる芸っていうのがすごいなと思いました。」
―そのとき太神楽はご覧になったんですか?
「太神楽もすごかったです。確か鏡味仙三郎師匠と仙花姉さんが出演されていたんですけど、私、勝手に(二人が)家族だと思っていたんです。あの芸のすごさは一子相伝しかないでしょって(笑)。」
―親子じゃないですけどね(笑)
「あと、仙三郎師匠が土瓶の芸をするときに、インドに行った話をして『インド瓶もびっくり』って言ったのはすごく覚えています(笑)。とにかく、何もかも衝撃的でした。そこから寄席通いがはじまって、あっという間にはまっていきました。」
-土瓶の芸はすごいですよね。あれはかなり難しいですよね?
「難しいです。今も稽古するため持ってきたんですけど。このくわえばちを咥えて、ここに鞠を乗っけるんですよ、まず。これが出来ないとダメなんですよ。私はまだ入り口に立ったところです」
―でも、お子さんもいらっしゃって、仕事もして。それだけでも大変なのに、新しい芸のための稽古もして。どうしてハードルをあげるんですか?
「えー、仕事ですから(笑)。でも、太神楽を極めたいというか広めたいというか、その気持ちはすごく強いです。私の場合、年齢を考えても今止まったらダメっていうか、前進していないと。それに太神楽は新しいネタを増やすのにとても時間がかかるので、とにかくまずは深めていかないといけない芸だと思うんです。どんなお仕事も、無理をすると必ず得るものがあるんですよね。例えば、炎天下の中だったり、すごい風が吹いてる場所でやらなくちゃいけないとか。えーー!!とは思うんですけど、最終的にはその中でもやれるようなことを模索するじゃないですか。わたしははっきりいってナマケモノなので、そういう状況に追い込まれないと成長しないタイプなんです。」
-今も相当多忙かと思うのですが、どう時間をやりくりしているんですか?なにか削ってますか?
「(削っているのは)夫への時間ですかね(笑)。家の中のことはほどほどで、家事はおろそかになっています。スケジュール管理や原稿の確認とか、仕事の細かなことはすべて移動時間にします。子育ても家事も半々でやっているので、大変なのは私じゃなくて夫ですよ、我が家の場合は。」
―その中で大事にされているのは何ですか?
「いえ、子どもとの時間です。忙しくても保育園の送り迎えは徒歩で行って、帰りは子どもと話しをしながら帰ってくるようにしています。と、私の場合、土日はほとんど仕事なのでコミュニケーションを本当に大切にしないといけないと思っています。」
―こちらの公演もそうですが、お子さんに向けてのステージの時に気をつけていることってありますか?
「まずゆっくり話すようにしています。一概に子どもっていっても、年齢をしっかり見極めて細かく対応しますね。例えば、ちっちゃければちっちゃいほど傘の上で物が回っているのが楽しいし、中学生以上になるとジャグリング系だったりします。あと、会場が一体になれるような演出も心がけています。」
-そういえば最近、外国の方の前でのステージが多くなったと聞きました。日本人との違いは何ですか。
「外国の方は日本人の方以上にウケます。とくにバランスの芸は外国にはなかなかないので、スタンディングオベーションしてくれたりして。そんなときは本当に嬉しいです。ただ難しいのは太神楽のおめでたさを伝えないといけないことです。太神楽って古くから幸せを祈るための芸というか、日本の曲芸はほとんどおめでたいこととリンクしているんですが、それをわかってもらうのが大変です。」
―おめでたいことを伝えることは大事ですか?
「太神楽はみなさんの幸せをお祈りする芸だからこそ、すごく長く愛されてきたというところがとても重要だと思うんです。その点はアジアの人たちがいるとやりやすいです。アジアにはおめでたい文化があるので。あと、例えば、傘の上で「枡(ます)」を回すとき、まず外国の方には枡がわからない。その道具を簡単に説明しても、角がある枡が回ることで、角がとれて丸くなる、それがすべて丸くおさまるという幸運の願いが込められていることが伝わりにくい。英語で説明しても、「丸くおさまる」という感覚は理解できないんです。」
―「枡」だけにますます、みたいな言葉遊びを説明するのは特にですね。
「それは本当に大変です。他にも毬を二つ使う技で、丸いものと丸いもので円と円で縁結び、っていうふうにいつも大人向けには説明するんですけど。でも縁結びって直訳できないじゃないですか。太神楽の言葉って直訳できないものが多すぎるんです。技を見てもらうだけなら悩まないのですが、日本の曲芸はそれだけではないので、何とかうまく伝えたいというのがこれからの課題です」
-他にこれからの目標ってありますか。
「夢はいっぱいあります。一番は、ほんとにおばあちゃんになっても太神楽を続けることですね。土瓶もやりたいです(笑)。あと海外に行って、フェスティバルに出たり日本のレストランとかで太神楽を披露したいです。海外の仕事はまだまだ少ないので。」
―最後に。突然ですが今、300万あったら何に使いたいですか?
「300万ですか?うーん、いろいろありすぎて困りますね。足りないかもしれませんが、色物の劇場を作りたいです。色物だけを楽しめる場所。ブルーノートみたいに、食事も食べられるといいですね。とにかく、もっとたくさんの人に太神楽を始めとする色物の魅力を知って欲しいし、楽しんで欲しい。本当にそれだけです。」
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