出張公演のご案内
落語を初めて聞く、というお子さんが多い出張公演でよくご登場頂くのが三笑亭夢丸さん。持ち前の明るさはもちろん、心があったまるような落語を聞かせて下さいます。その落語のルーツは一体どこにあるのか、伺ってみました。
―落語家になるには、まず落語が好きというところからだと思うのですが、落語を聞き始めたきっかけは何だったのでしょう?
「僕は子どもの時から本好きだったんです。小学2,3年生のときだったかな、一番夢中になって読んだのが、江戸川乱歩の『怪人二十面相』。あの表紙がおどろおどろしいやつですね。でも、長いシリーズでも読み終わっちゃうわけですよ。ああこれでシリーズも終わりだ、というその隣にあったのが落語の本だったんです。その時は落語のことは全然知らなかったんです。でもまぁ読んでみたら、ああ面白いもんなんだなと思いましたね。ただひとつだけすごくつまらない話があったんですよ。で、なんでこれこんなに面白くないんだろうと思って、後ろの解説を読むと、「この落語は本で読むよりも実際に見た方が面白い落語です」って書いてあったんです。」
―それは何の話?
「船徳です。動きの話ですからね。まぁ、うちは田舎でしたし、そんな落語を見る機会も別になかったんですけど。そんなとき、うちの父親から、生まれて初めて、誕生日プレゼントというのを買ってもらって、それがラジオだったんです。嬉しくて、適当にこうダイヤル合わせていたら、なんか、おっさんとかじいさんの一人喋りが聞こえてきた。それが落語だったわけです。そこで点と線とがつながりまして。本で読むよりも実際に聞いたほうが面白かったんですよね。」
―小学3,4年生でラジオから聞こえてくる落語がおもしろいって思えるのがすごくないですか?
「本を読んでね、覚えていたんですよね、なんとなく。だからラジオの落語を聞いたときに、あれ、これどっかで聞いたことある話だなとなってね。同じ噺でも違う人がやると、また違っておもしろいんですよね。それから中学生でも高校生になっても好きでしたね。」
―落語って、周りに好きな人いました?
「いや、いないですよね。自分も誰にも言えなかったですよ。中学生の時だったかな、平日の昼にラジオで落語があったんですよ。僕、運動部だったんですけど、ランニングの最中に、家に帰ってラジオの録音ボタン押して、しれっとこうランニングに戻ったりしてね。そうすると友達に『お前いなかっただろ!』とつっこまれ『いやいや、ずっと学校の周り走ってた!』っていうやりとりになったり(笑)。でも落語の録音しに(家に)戻ってたとか絶対に言えないですよね。」
―とにかくひたむきに、落語が好きだったんですね
「いや、気持ち悪いでしょ(笑)。高校生のときに、落語を録音したテープを隠したくて、タンスの中の下着とかを全部ダンボールに入れて、空いたタンスのスペースにテープを詰め込んだんですよ。で、ある日母親が息子の洗濯物を持って、タンスをがーっと開けたら得体の知れないテープがびっしりで。かなり気味悪がられました(笑)。」
―その落語好きが転じて落語家になったわけですか
「いや、まさか(自分で)やるという話になるとはね、思わなかったです。小さな頃から先生のところに答案も取りに行くがいやなくらい人前に出たりするのが嫌いでしたからね。でも、まぁ、社会にでて少し働いたりして、それでも落語が好きで。いろんなタイミングが重なって、自分のこれからの人生を考えていたときに、桂枝雀師匠の落語を聞いていたんですよね。そのマクラで『本当に落語が好きでたまらないなら、落語家になったほうがいい。だって毎日落語が聞けるんだからね』という一言で、目が覚めたんですね。背中を押されました。それから落語家への道が始まったような感じです。」
―こども寄席は初めて落語を聞くという会に夢丸師匠にお願いすることが多いのですが、そういうお子さんたちに対しての心構えみたいなものってあるのでしょうか
「意識として、『落語は江戸時代から伝わる素晴らしいもの』なんですけど、そんなことは子供達にはどうでもいいわけですよね。面白いか面白くないかだけ。非常にレスポンスは素直なんです。僕の役目は、落語ってとにかく難しくないよ、聴いてみたらおもしろいでしょというような、最初のハードルを超えてもらうことにあるんですね。ハマるハマらないって個人差がありますから。ただとにかく、落語ってつまんないなとか、難しいからもう聴くのやだな、って思わせることだけは、絶対に避けなきゃいけないって思っています」
―第一印象って大事ですよね。
「大人の方って僕が(落語を)演りますよね、で、つまんないと、『あ、夢丸っておもしろくないな、』で済むんですよ。でも、子どもたちは僕がつまんないと落語っておもしろくないなとなっちゃうじゃないですか。だからもう、それは非常に責任が重大で、このあと60年70年生きるとして、落語を聞いてくれるかくれないかの一番は僕にかかっているんですよ(汗)。」
―子どもたちが大きくなってまた夢丸さんの落語を聞いてくれたら嬉しいですね
「そのためじゃないですけど、ぼくの最終目標は死ぬ前の日まで落語をやっていることです。そのためには『万事機嫌よく』ですよね。これも桂枝雀師匠の言葉で僕の言葉じゃないですけど(笑)。だからまあお客さんの前に出たら、なんかいつもこいつ見たら疲れが吹っ飛ぶなって思ってもらえたら嬉しいわけです。」
―死ぬまで落語家ですか。その中で、お客様に伝え続けたいことはあったりしますか?
「落語って何が良いかって、登場人物がみんななんかいい加減で、でも良いやつなんですよね。その世界観ですよねえ。ってことはやっぱり自分が、悪人ではなく、しかも、こうでなきゃいけない! じゃなくて、ふわっとして毎日送れれば良いなあって思いますね。」
―最後に。皆さんに伺っているんですが300万あったらどう使いますか?
「僕って貧乏性なんでしょうね、その300万ででっかい花火を打ち上げようとか、どえらいことしようじゃなくて、東京とかじゃない土地にちっちゃい小屋を借りて、それで常打ち。300万を資本にして、細々と。で、立ち行かなくなったら潰す(笑)。」
―とことん落語好きですね。自分に使うわけじゃないんですね
「そうですね、やっぱり落語ですね。自分は食べていけるくらいあればいいですから。あっ、最近ちょっと変わってきたんです。奥さんと子どもを食わせないといけないんで。もしかすると、ちょっとだけネコババするかもしれないです(笑)」
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